長い苦闘と、薄く透ける歴史の表裏

墨田区東向島に「REMINDERS PHOTOGRAPHY STRONGHOLD」というギャラリーがある。(本当はギャラリーはその活動の一端で、写真集の図書館やワークショップ等の創作者支援・キュレーションの役割も大きい場所だが)

ここで23日までやっていたのが、林田真季さんの写真展、

「Almost Transparent Island」

ガラス張りで外からもよく見える。

最近はアートの島としても知られる瀬戸内の豊島が、実は有害産業廃棄物の処理場として(違法に)利用されていたという話は、環境問題に関心のある40代以上の方ならご存知かもしれない。
私もごくごく表層的な概略は知っていた。

この写真展(とフォトブック)が見せるのは、この豊島で何が起こったか、それを島民や弁護士を中心とした運動体がどう克服したか、どう未来に繋ごうとしたか、そして今どうなっているか、という経緯、というか、歴史と現在。
この展示で初めて認識したが、豊島の産廃問題は2017年にいったん搬出が終了し、直島での処理も終了したが、その後に未搬出の産廃が発覚したり、処理池の処置が終了していないことなどから、まだ最終的には終わってない。

年表と様々な時代の写真で歴史を表現する。

その中で、このような事態を再び起こさないための、未来を見据えた運動(闘い、ではないと感じた。豊島だけの問題と捉えず、広い範囲で働きかけと共有を行なっていて、まさに「運動」と捉えるべき)が継続的に続けられてきたし、その苦闘の結果が、ギャラリーの壁2面にも及ぶ長い長い運動の履歴なのだと思うとまさに頭の下がる思いがする。

一通り見た後で林田さんと話したのだが、やはり産廃問題、それもかなり酷い話なので見せ方が難しい、と。核心をいきなり持ってくると関心のある人には響くのだが広く訴えかけるには難しい。(確かに、それはそういった運動に関して共通の悩みでもある)
林田さんも、運動そのものについて知らせることは地元の人たちにお任せしたい(大意)、とのことだった。
そのため、一見、離島の産業施設か何かに見える長閑な風景写真然としたものに入口を持ってきたそうだが、林田さんの狙いは当たっているように見える。
(下の写真がそうだが、私も最初は離島の風景を切り取った風景写真かと思った。ただ、妙に気になって、それで写真展に行こうと決めたのだから、もう少し強く「当たっている」と言っても個人的にはいいだろうと思っているw)

最初は千島列島のどこかとか思った。

で、そこから過去へは、透けて見えるほどの薄い紙で「目の前の風景は過去を経て現在につながっている」という表裏一体の様で示したかった、とのこと。薄い紙だから裏が写る。それを含めて見ることで単に写実でないノイズも含めた「層」を見せることが可能になる、ということだろう。

以前、とある音楽家が「綺麗な音だけでは音楽にならない」云々と話していたのを覚えている。違法産廃問題はない方が良い、いや、あってはならないのだが、その歴史の「層」「ノイズ」を知らなければまたそこで表現されるアートも薄くなってしまったりもするだろう。

その「層」「ノイズ」を、長い長い苦闘の歴史に反比例するかのように、透けるような薄い、薄い紙の表裏で表現する、というのがいろんなことを考えさせる契機として、なんというか、やられたなぁ、と思ったのだった。
地球の歴史から言うと、長い長い苦闘もそれぐらいの薄さかもしれない(、だから地球の歴史の厚みを無視してはならない)、という思いも含めて。

それにしても、ここにくると写真の表現って思いも寄らない方法があるなぁ、と毎度毎度思うのだ。難しいけど楽しい。

そうそう、手作りのフォトブック、林田さんがギャラリー内で作成中だった。限定部数で1万円超えるので簡単には買えないが(私も財布と相談している・・)持っておきたいとは思っている・・。

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