2012.10.22 読書日記 – ルポ イチエフ――福島第一原発レベル7の現場

ルポ イチエフ――福島第一原発レベル7の現場

(布施祐仁/岩波書店)

これはルポルタージュだ。処方箋を示す書籍ではない。ずっと(原爆の)被爆者への取材を続けてきた筆者の思いは所々で表出するが、大半はイチエフで、様々な理由で働く労働者、あるいはその労働者を集め管理する(下請け)企業の責任者の話である。その点は理解する必要がある。
ただ、事故前も含めて、ああいう事態に至った「現場」の「労働者」がどういう状態であったのか、なっているのか、というのは、今後の収束作業、再稼働の可否を含めて大きな問題であろうことは想像がつく。(何事もビジョンと計画だけでは進行しない、人なり機械なりカネなりの手配がつかないと根本的に進まないのは現在の自分の仕事の課題でもある)
この本は、そういった現場で働く作業員(労働者)の意識を、丹念に追う。被曝の問題(被曝に対する意識、現場の管理統制、因果関係と補償)、搾取の構造(カネの流れ、労働契約、法的問題、東電・元請けの姿勢)、現場の生活・・・、そしてある意味源流とも言うべき常磐炭田の話。
詳しくは是非、買って読んでいただきたいが(こういうことにきちんと費用をかけるのも、ジャーナリズムを支えたり、確度の高い情報を得ることに繋がる、ということには留意したい)、私自身の感想である。
1)現場の労働者の尊厳
 これからどうなるにせよ、収束に向けて実際に骨身を、寿命を削っているのは現場の労働者だ。我々の立場で具体的に待遇をすぐに劇的に改善するのは難しいかも知れない。しかし、この労働者の存在が、曲がりなりに日本をいま支えていることにもっと評価があっていい。そのことを折に触れて表明し、感謝を形にするだけでも変わっていくものがあるのではないか。まさに「事件は現場で起こっている」。
2)再稼働について
 正直、いろいろ立場はあると思う。技術的には日本の原発は他国のものより進んでいるのだから、他国の未熟な原発が周辺国に設置されるよりは日本製を、という意見も見たし、電力需要に対してはかなり無理をした対応をしているのもある程度事実だともいえる。
 ただ、少なくとも、現場の労働環境や教育・技術の伝承などの点では、文字通り抜本的な対策を打たないと廃炉作業さえもまともにできないだろうし、そこに手間取っている限り、再稼働や新規などに、とても人を手当てできる環境ではない。
 そして、その抜本的な対策は、おそらく東電では無理だし、現在の状態では規制庁にも無理だろう。(規制委員会にはまだ若干希望はある、かもしれない)
 とても現状では再稼働云々をいえる状態ではないだろう、それを言ってしまうと、重層的な搾取構造を容認することになってしまう、それは一括請負/特定労働者派遣の現場を抱えて仕事をしている自分にとっても人ごとではないという危機感がある。本当に、仕事は、人が居て(アサインされて)初めて動きうるし、そのレベルは死活的な問題だということは理解する必要がある。
 もしかしたら程度の差こそあれ、どこでも起きているかも知れない、でもそれが国土/国家の死活を握る現場で一番激しく表出していることに絶望感を感じる。でも絶望している暇はない。ではどう動かないといけないのか、事実を知るということはこういうことなんだろう、と思う一冊だった。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です